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「キハダ清涼飲料水」の商品開発と地方創生

7月7日より販売が開始された『ちちぶもりのめぐみシリーズ 森のサイダー きはだのにがみ』の開発に携わった野澤直美教授と高野文英教授にお話をいただきました。

野澤直美 教授

秩父地域の新たなる林業振興を目指したキハダ(黄檗)を活用した商品開発と地方創生に向けた取組み 【秩父の産業と林業の現状】

秩父地域はかつてセメント、絹と銘仙、林業と農業の盛んな地域で、観光も相まって比較的豊かな地域でした。秩父市はその中心的な存在で、今でも地域の教育・産業・文化面の情報発信の街でもあります。時代の流れとともに、セメント工業は撤退し、養蚕や銘仙も細々と特定の農家と企業で生産を続けているのみとなっています。林業にしてみれば、ヒノキ・スギは需要の低迷で、山中から木材を切り出せば赤字という袋小路に入っている状況です。秩父山中を歩けば、日本の林業の衰退が手に取るように理解できます。

秩父は埼玉県では少子高齢化が最も進んだ地域で、限界集落も現れはじめています。観光資源以外にはこれといった産業のない秩父に、新たな経済的活路を見出すことは大きな課題です。そうした中、林業の活性化を目的としてカエデ樹液を利用したプロジェクトがすでに進行中です。


【キハダプロジェクトの目的】
秩父地域の新たな林業振興を目指して、2年前に秩父樹液生産共同組合と日本薬科大学が共同してキハダプロジェクトをスタートさせました。秩父山中にはキハダ(黄檗)が多く生育しています。キハダは古来から生薬として利用されています。このキハダを活用した清涼飲料水の製品化に取り組みました。法的な壁もありましたが、埼玉県薬務課、秩父市のバックアップもあり、キハダ抽出液を苦味の味付けとして活用することで問題解決が図れ、平成27年7月7日に「今日もすっきりキハダの苦味」という商品として発売に漕ぎ着けました。

【プロジェクトの今後の方向】
現在、製薬会社と提携して、キハダを活用したさらなる商品開発として、ボディーシャンプーを医薬部外品としてこの秋に発売する予定です。また、秩父山中には、薬木が多種類あることから、第3の清涼飲料水の開発も検討中です。今後、本学としては漢方分野のフィールドとして秩父地域との連携もさらに深めて参ります。このように本学の特色を活かした産学官の連携が、少しでも秩父地域を含めた地方の創生につながることを願っています。

高野文英 教授

秩父のキハダと飲料開発

秩父地域はかつてセメント、絹と銘仙、林業と農業の盛んな地域で、観光も相まって比較的豊かな地域でした。秩父市はその中心的な存在で、今でも地域の教育・産業・文化面の情報発信の街でもあります。時代の流れとともに、セメント工業は撤退し、養蚕や銘仙も細々と特定の農家と企業で生産を続けているのみとなっています。林業にしてみれば、ヒノキ・スギは需要の低迷で、山中から木材を切り出せば赤字という袋小路に入っている状況です。秩父山中を歩けば、日本の林業の衰退が手に取るように理解できます。

秩父には豊かな林産資源がありますが、スギやヒノキ類の建築資材は海外製品に需要を押されてしまい、その活用性が失われている現状にあります。秩父山地の木本類の植生は、長期間攪乱を受けることなく維持されていてることが特徴であり(澤田ら「秩父山地山地帯天然林における植生型および樹種個体群の空間分布と地形依存性」日林誌、87:293~303、2005)、自然林を保護し、新たな活用法を見出すことは地域活性化につながります。特に、秩父地域の山林には、カエデ類が多く、紅葉シーズンには観光資源となり、さらには樹液を採取することができるので、これを食材としても活用することもができます。秩父樹液生産者組合が中心となったNPO法人「秩父百年の森」では、秩父に豊富なカエデに着目してカエデ樹液プロジェクトを立ち上げ、秩父地域のカエデから樹液を採取して甘味飲料を作り、その利益を地域の活性化につなげる活動を始めました。
秩父山林には、カエデ以外にも、キハダが多く自生していることが知られています。
キハダは、その幹の内皮が鮮やかな黄色をしていて、これには特徴的な苦味をもつアルカロイドやリモノイド成分が含まれています。昔からキハダは、胃ぐすり、下痢止め、漢方薬の原料とするほか、色や味を生かした草木染や苦味の味付けとして利用される木です。秩父山地に自生するキハダについて、その有用性を科学的に調べる依頼が樹液生産者組合を通じて本学にあり、漢方分野が中心になって秩父産キハダの成分を中心に分析を行いました。分析の結果、秩父キハダにはベルベリンというアルカロイド以外にも苦味成分のリモノイドが多く含まれていることが判りました。

そこで、秩父産の天然林であるキハダをなんとか有効活用できないか、樹液生産者組合と本学、これに地元飲料会社が加わり、キハダプロジェクトを新規に立ち上げ、知恵を出し合い協議を重ねました。キハダの苦さは、エグ味や渋味の少ない比較的「スッキリ」とした味覚を与えます。そこで、この特徴的な苦さに着目し、サイダーを作ってみてはということになりました。サイダーはそもそも「甘いいもの」というのが既成概念ですが、これを逆手を取って「スッキリとした苦さ」を売りにすることは、ユニークではないだろうかというものです。キハダは一方で、医薬品原料でもあり、飲料として開発をするには旧薬事法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の壁があります。プロジェクトでは、埼玉県薬務課とも何度も交渉、協議を重ね、きちんとした法令遵守(薬効をうたわない、あくまで苦味としての添加物とすること)と管理の上販売してもよいという許可を得て製品化にこぎつけました。
今後は、キハダを飲料以外の形で活用する製品開発に取り組むのと同時に、自然豊かな秩父地域の山林における他の天然シーズ発掘のための学術調査についても本学が中心となって進め、秩父地域の活性化に寄与していきたいと考えています。